大判例

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東京地方裁判所 平成8年(特わ)947号 判決

本籍

大阪市中央区安土町三丁目一番地

住居

東京都渋谷区代々木四丁目二八番一一号 クリスティー代々木三〇二号室

会社役員

平岡芳江

大正一一年二月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官立澤正人、弁護人権藤世寧、同小林徹也各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金六〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都渋谷区桜丘町五番五号において、「I・Aプレップスクール」の名称で学習塾を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成三年分の実際総所得金額が二億〇八四六万〇〇七九円(別紙1(1)の所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成四年三月一六日、同都同区宇田川町一番一〇号所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、みなし法人所得金額が一〇四五万五二六二円、総所得金額が二三三七万九八〇〇円で、これらに対する所得税額が五五六万六九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成八年押第一二九六号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額九五二五万一〇〇〇円と右申告税額との差額八九六八万四一〇〇円(別紙2(1)のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成四年分の実際総所得金額が二億三二八三万九〇一七円(別紙1(2)の所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、みなし法人所得金額が一四三二万九四五八円、総所得金額が二五五四万九二四〇円で、これらに対する所得税額が八〇三万四七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億〇七四一万六〇〇〇円と右申告税額との差額九九三八万一三〇〇円(別紙2(2)のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成五年分の実際総所得金額が二億八四五八万二八三四円(別紙1(3)の所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成六年三月一四日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が三〇九九万八五七七円で、これに対する所得税額が一一〇九万六六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の5)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億三七八八万五六〇〇円と右申告税額との差額一億二六七八万九〇〇〇円(別紙2(3)のほ脱税額計算書参照)を免れた

ものである。

(証拠の標目)

[括弧内の番号は、証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。]

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書一四通

一  野田佳花(四通)、坂西洋二(二通)、岸しのぶ、二杉宏昭(三通)、薬師神保子(二通)、大久保登喜子(二通)、八木洋子、金谷健太郎、金谷和子、森紀与子、井上正美、水谷隆及び阿部寛人の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の現金調査書、普通預金等調査書、定期預金調査書、有価証券調査書、土地建物調査書、器具備品調査書、電話加入権調査書、保証金・敷金調査書、事業主貸調査書、未収源泉税調査書、未払金調査書、未払源泉税調査書、源泉預り金調査書、借入金調査書、事業主借調査書、雑所得調査書及び申告所得金額調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲一四、四八、六二、六三)

一  渋谷税務署作成の「申告所得税の納付状況照会に対する回答」と題する書面

判示第一、第二の事実について

一  大蔵事務官作成の配当所得調査書、給与所得調査書、所得控除額調査書、配当控除額調査書及びみなし法人所得税額調査書

一  渋谷税務署長作成の「証明書」と題する書面

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の一時所得調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲六四)

一  押収してある所得税確定申告書一袋(平成八年押第一二九六号の1)及び所得税青色申告決算書一袋(同押号の2)

判示第二、三の事実について

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲五七、五九、六一)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の源泉徴収税額調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲五八、六〇)

一  押収してある所得税確定申告書一袋(同押号の3)及び所得税青色申告決算書一袋(同押号の4)

判示第三の事実について

一  押収してある所得税確定申告書一袋(同押号の5)及び所得税青色申告決算書一袋(同押号の6)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、各罪につき、所定の懲役刑と罰金刑を併科するとともに情状により同法二三八条二項を適用し、以上は刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの。以下、同様)四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については刑法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪について定めた罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金六〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、学習塾を経営していた被告人が、売上の一部を除外するなどして、三年度にわたり合計三億一五八〇万円余の所得税を免れた事案であるが、ほ脱税額は極めて高額で、ほ脱率も通算約九二・七パーセントと誠に高率であって、この二点のみをもってしても重大な過少申告ほ脱事犯といわねばならない。被告人は、「税金は何の見返りもなく取り上げられるものであるからきちんと払う必要はない」との発想のもと、税理士に指示して、実際額を大幅に下回った所得金額・税額を確定申告書に記載させて提出させるなど、納税意識が甚だ希薄である上、脱税の動機をみても、被告人は、「夫と子供に先立たれた寂しさもあり、税金を納めずに大好きな宝石や毛皮等の贅沢品を購入して、幸福な気持ちで老後の生活を送りたかった」などと述べているが、当時の被告人の資力からすれば格別同情に値しないところであって、これら諸点からすると被告人の刑事責任は重いというべきである。

しかしながら、他方、本件は大雑把なつまみ申告によるもので手口が比較的単純であり、行われた偽装工作もさほど巧妙なものとはいえないこと、被告人は、本件犯行を認めて反省の態度を示していること、その後修正申告の上本件三年分の所得税本税・延滞税、消費税及び地方税を完納しており、本件所得税にかかる重加算税の未納付分についても早急な納税完了を目指していること、税理士の指導を受け二度と同種事犯を犯さないよう経理体制を改善していること、本件が広く報道され相応の社会的制裁を受けていること、被告人には前科前歴が全くないこと、その他その年齢・健康状態等被告人のために酌むべき諸事情も認められるので、懲役刑については今回に限りその執行を猶予することとし、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役二年及び罰金八〇〇〇万円)

(裁判官 平木正洋)

別紙1(1)

所得金額総括表

〈省略〉

修正貸借対照表

〈省略〉

別紙1(2)

所得金額総括表

〈省略〉

修正貸借対照表

〈省略〉

別紙1(3)

所得金額総括表

〈省略〉

修正貸借対照表

〈省略〉

別紙2(1)

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙2(2)

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙2(3)

ほ脱税額計算書

〈省略〉

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